なんだか寂しいタイトルのこの絵本。
中身は温かく、目頭がじんわり熱くなります。
男の子のママや、猫好きの人にはきっと刺さるはず。
大森裕子さんの絵本は何冊か読んでいる。優しく柔らかいタッチと、細部まで繊細に書き込まれた色鉛筆画が、私は大好き。
この「わすれていいから」でもその魅力が存分に味わえる。
子猫の、ピンク色のおなかの柔らかさ。猫くんとともに成長していく赤ちゃんの、もっちりとした太もも。写実的なイラストから、手触りまで伝わってくる。
ストーリーは、とある家庭で飼われている猫くんの1人称で進んでいく。「はじめておれが、ここに来た時、おまえ、いたよな」「おれのほうがアニキだぜ」「勉強をおしえてやる」と、野良猫のようなふてぶてしさで男の子に接する猫くん。でもセリフに反して、猫くんのまなざしが優しいの!
猫くんのツンデレっぷりがイイ!
でもここで油断してはいけない。題名が「わすれてもいいから」。カワイイだけで終わる絵本じゃなさそう。気を引き締めてページをめくる。
男の子は成長し、荷造りをしている。段ボールの中に入ってご満悦の猫くん。男の子は猫くんの頭を優しく撫でている。猫くんはきっと、柔らかい頭を、男の子の手のひらにこすりつけているのだろう。
猫くんは最後、「元気でな。おれのことはわすれていいから」と多分、猫界では最大のエールを送って物語は終わる。
別れを惜しむのではなく、あっさりと見送る様子が、1人と1匹の間に強い信頼関係があるのが分かる。
最後まで読んで気付く。
いつの間にか、猫くんの目線じゃなくて母の目線で男の子を見ていた。
だからなおさら、1匹でソファーに座る猫くんの姿に目頭が熱くなった。