開始早々に2失点した。
相手チームとは過去4回対戦していて、1勝3敗だ。
保護者からはため息とともに「やっぱだめかー」のつぶやきももれる。
しかし子どもたちの心はまだ折れていない。顔を上げ、声を掛け合う。こういうところにも子どもたちの成長を感じる。
チームのエースにボールが渡った。彼はサイドを駆け上がり、前に出てきた相手チームのキーパーを抜くと力強いシュートを放った。
子どもたちからも保護者からも歓声があがる。
私も隣に立つママ友とともに喜びを爆発させた・・・
ふりをした。そしておそらく私の隣のママ友も。
この感情は、少年団の母以外には伝えにくい。
『アルプス席の母』の主人公、秋山菜々子は女手ひとつで高校球児の息子、孝太郎を支えている。孝太郎は特待生で強豪校の希望学園に入り1年生のころからレギュラー入りをしてきた。ところがケガとリハビリのため、レギュラーメンバーからは外れてしまう。代わりにレギュラー入りを果たしたのは、彼の親友だった。
息子の親友が初ヒットを放った時、菜々子は「ちゃんと喜べている自分に安心した」と言っている。
『アルプス席の母』はスポーツ少年の母の葛藤と屈託と、それから喜びをぎゅっと凝集した本だ。
『アルプス席の母』
著 早見 和真
発行 株式会社小学館
初めは強豪校の野球部に入団したことを喜ぶ菜々子だが、次第に苦痛になっていき、「女の子のお母さんになりたかった」と嘆く。
なぜか着飾って登場する保護者たち、理不尽な要求にバカみたいな決まりごと。そして何を考えているんだか分からない思春期の息子。球児の母には乗り越えなくてもならない壁が山ほどある。
それでも頑張れるのは、息子や野球部の成長が、そんな苦労を凌駕するほど嬉しいから。
今週末は、また息子のサッカー大会だ。もやもやを抱えつつも、やっぱり楽しみなのだ。