ヤマノナcafe

山に関する書籍紹介と山行記録

寡黙な針葉樹、生を語る|幸田文『木』を読んだら杉やヒノキの人工林が好きになった話



f:id:yoko_tak:20250424154817j:image
杉やヒノキの人工林を歩いてて

「退屈だなー」

って思うことない?

幸田文さんのエッセイ『木』を読んで、静寂の魅力に目覚めました。

あなたにも薄暗い人工林の魅力を知ってほしい!

 

 本日のお品書き

🌲 奥武蔵は人工林が多い

古くから林業が栄える奥武蔵は、杉やヒノキの薄暗い登山道が多い。

物見山山頂は、多くの広葉樹に彩られるけど、そこから北向き地蔵へ向かう道は、広大な人工林。

ズラーーーッと並んだ杉やヒノキは、皆同じように細く、長く、まっすぐで、

日を遮り薄暗く、鳥や虫を育まない。

加工しやすいように、人に管理され、枝を落とされ、1本の棒の上にわずかな梢と葉を頂く樹形。

近くの広葉樹林から聞こえてくる鳥の声は楽しげで、取り残されたような寂しさを感じます。
f:id:yoko_tak:20250423135358j:image

🌲 鷹揚な、ユガテの大きな杉

お昼過ぎに、山の中の小さな集落・ユガテに到着しました。

木陰のベンチでコーヒーを淹れて休憩です。

足元に落ちてる茶色の木の実を見て、気付きました。

 

これって杉じゃん。


f:id:yoko_tak:20250423135047j:image

人工林の杉と、あまりに違う樹形だから気づかなかった。

天を衝く三角錐の樹形。

堂々として、ゆったりとして、なんだか話しかけてきそうな親しさです。

📖 幸田文『木』を読んで、木を愛でる感性を養う

幸田露伴の娘で、名エッセイストである幸田文さん。

本書は、作者が書き連ねてきた、木にまつわるエッセイを編集したものです。

一番古くて、1971年。

50年以上前。

古臭さを全く感じません。

それどころか、触れれば滴るようなみずみずしさを感じます。

それは、著者の文才の妙なのか、

それとも木が生きる悠久の時の流れからしたら、人の世の50年なんて、一瞬のことだからかもしれません。

 

著者は、小雨降る中で北海道の演習林を見学した時の感想を、こう記します。

木はまことに無言であり、
私はなにか誰かに語りかけたくてたまらないのを、
ただ控えて、
森林の静寂に従って佇んだ。

これ!

杉林で感じた寂しさは、まさにこんな気分でした。

「なんか退屈~」って感じるのは、私の感受性が鈍ってるだけ。

寂しさこそが人工林の魅力かもしれません。

 

さらに印象に残ったのは、営林署の方々の話。

一度植えれば、それは終生の子として思い、どうしてどうして忘れるものじゃない。

林業に携わる人が見たら、どれも少し捻くれていたり斜に構えていたり、個性豊かな可愛い我が子なのかも。

天然林=素敵
人工林=退屈

って割り切るんじゃなくて、人工林の静寂さ、枝葉を伸ばした大杉のおおらかさ、それらを同様に愛でる心の柔軟性を持ちたい。って思いました。

 

 

🌲杉やヒノキの人工林も楽しく歩く

幸田文さんの視点をマネて歩くと、「なんか退屈~」な杉やヒノキの人工林も、静謐な気持ちで歩けます。

今度の登山では、杉林で足を止め、静寂に身を浸してみてください。
f:id:yoko_tak:20250423135307j:image

🔗 関連記事

当ブログでは、登山での楽しみが増える本をご紹介しています。

動物の痕跡探しも楽しいですよ!

 

yoko-tak.hatenablog.com

 

小鳥の声に耳を澄ませたくなる小説、小川洋子『ことり』。心が洗われるようなお話です。

 

yoko-tak.hatenablog.com

 

 

ランキングに参加しています。

クリックして応援していただけると嬉しいです。