働くって大変なのよ。「みずもかえでも」

寄席が好きな繭生(まゆう)は演芸カメラマンを志し、カメラのお師匠さんの助手を務めていた。しかし、師匠との約束を破り舞台袖から1枚の写真を撮ってしまう。

繭生は悔やみ、自分の夢に蓋をした…

繭生は、現在、結婚式の写真を撮るカメラマン。しかし、情熱を失いかけていた。花嫁さんと花婿さんのご希望を第一に、クレームが来ないことばかりに気をかけていれば、自分の美意識がそこに入り込む余地もない。繭生のやる気のなさを敏感に察知しているのか、後輩の小峰はぶっきらぼうに生意気な口ばかりきく。

そんな繭生のもとに結婚式場から依頼が入った。新婦のみず帆と対面したとき、繭生は思わず目を見張る。みず帆は、繭生が夢をあきらめた理由を知る、ただ一人の人物だった。

蓋をして忘れたつもりだった過去の過ちと後悔が、再び繭生を苦しめる。そんな繭生にみず帆は「あんたはまだ逃げたままなんだ」と冷たく吐き捨てる。そして「あんたに写真を撮って欲しくない。助手の小峰くんに担当してもらいたい」と要求する。

小峰ははりきって撮影に挑むが、機材の扱いがまるでなってなく、手取り足取りのサポートが必要だった。

小峰はセンスは抜群なのだが、発達の特性ゆえに数が数えられない。みず帆は、結婚式に屈託があるがゆえに、心から式を楽しめない。みず帆は、そんな2人と真摯に向き合うことで、自分の仕事への姿勢を見直していく。

本書の主人公、繭生はほんっとに優柔不断の甘ちゃん。夢を追い続けることを意識しつつも、覚悟ができずに中途半端な行動しかできない。しかし、そんな自分に嫌気がさしても、ふんばり続ける姿に自分を重ね、応援したくなった。

物語は、繭生がそろそろと新しい道へ踏み出したところで終わる。繭生の決断は、吉と出るか凶と出るか。

人生の分かれ道で一つの道を選んだら、力づくで吉にするしかないのである。

繭生も、私たちも。